【突然襲われる恐怖】パニック症の東洋医学

2025年6月4日

はじめに 〜突然の「恐怖」が日常を奪う〜

ある日突然、理由もなく強い動悸息苦しさめまいに襲われ、「このまま死んでしまうのではないか」と感じる――。そんな体験をした方は、もしかすると「パニック症(パニック障害)」かもしれません。

パニック症は、本人にしかわからないほどの強い恐怖と不安が、突如として日常の中に現れる心身の疾患です。

◯買い物中

◯電車に乗っている最中

◯職場での会議中

など、きっかけもなく発作が始まることがあります。

「病院で検査しても異常は見つからないのに、こんなにも辛い。」

「またあの発作が起きるかもと思うだけで外に出るのが怖い。」

こうした悩みは、パニック症の方に共通して見られるものです。外見からは見えにくい症状であることから、周囲の理解を得られず、孤独や無力感を抱えている方も少なくありません。

パニック症は、決して「気のせい」や「性格の問題」ではなく、自律神経や脳の機能に深く関わる医療的な問題です。そしてこの症状は、適切なケアや治療によって、改善やコントロールが十分に可能な疾患でもあります。

このコラムでは、パニック症についての基礎知識から、東洋医学的な視点、当院での鍼灸施術の方針、さらに日常生活でできるセルフケアまで、幅広くお伝えしていきます。あなた自身や、あなたの大切な人が抱えている「見えない不安」に寄り添いながら、少しでも心が軽くなるきっかけになれば幸いです。

 

2. パニック症とは何か?──医学的な背景と診断の実際

パニック症(英語では Panic Disorder)は、「パニック発作」と呼ばれる激しい恐怖や不安が突然現れ、それが繰り返されることで日常生活に支障をきたす精神疾患です。

精神科や心療内科の診断基準(DSM-5)においては、「繰り返される予期しないパニック発作」と「発作に対する持続的な不安や回避行動」が主な特徴とされています。

◆パニック発作とは?

パニック発作は以下のような身体症状と心理的恐怖を、明確な引き金なしに突然感じる状態です。

動悸、心拍数の増加、発汗

息苦しさ、過呼吸

めまいふらつき

胸の痛みや圧迫感

「気が狂いそう」「死んでしまう」という感覚

発作自体は10〜30分程度で収まることが多いものの、強烈な恐怖体験として記憶に残り、「また発作が起きたらどうしよう」という予期不安が日常を制限してしまうこともあります

 

◆原因は「ストレス」だけではない

「ストレスが原因でしょう」と一言で片付けられてしまいがちですが、パニック症の背景には脳内の神経伝達物質(特にセロトニンやノルアドレナリン)の不均衡自律神経の乱れ、さらには遺伝的素因が関与していることがわかっています。

このように、パニック症は「心の弱さ」や「性格のせい」といった単純なものではなく、医学的にも明確なメカニズムが関係しているれっきとした疾患です。

3. パニック症がもたらす日常生活への影響

パニック発作は数分から長くても30分程度で治まる一過性の症状です。しかし、真に生活に支障をきたすのは、その「後」に残る不安と恐怖です。

──「また発作が起きたらどうしよう」「人前で倒れたら恥ずかしい」

こうした思考が、生活のあらゆる場面に影響を与えます。

◆「予期不安」と「回避行動」

発作そのものよりも、それを恐れる気持ち(予期不安)が強くなると、人は無意識に危険を避けようとします。

その結果、外出や人混みを避ける「回避行動」が始まり、生活の幅が狭まっていきます。

たとえば──

◯電車やバスに乗れなくなる

◯スーパーや映画館などの密閉空間を避ける

◯会議や美容室など、途中で抜けられない場面を避ける

これらはやがて「広場恐怖(アゴラフォビア)」と呼ばれる状態に発展し、パニック症をさらに長期化・慢性化させる要因になります。

◆表面からは見えにくい「苦しさ」

パニック症は外見上の異常が少なく、「見た目は元気なのに」と思われてしまいがちです。しかし実際は、「いつ発作が来るかわからない」という見えない恐怖と常に闘っている状態です。

誰にもわかってもらえない、でも助けてほしい──

その心の葛藤が、孤立や自己否定を深めることがあります。

4. 東洋医学からみたパニック症〜気・自律神経・感情のつながり〜

現代医学では「脳や自律神経の異常」とされるパニック症。一方、東洋医学では、発作や不安といった状態を「気(き)」の乱れや五臓六腑の不調として捉え、心と身体を一体のものとして治療します。

◆「気」は心身のエネルギー

東洋医学における「気」とは、生命活動を支えるエネルギーのことです。この気が滞ったり、過剰になったり、虚してしまうと、身体だけでなく感情にも影響が生じます。

気が滞ると:不安感、焦燥、胸苦しさ

気が上がると:動悸息苦しさ、のぼせ

気が虚すると:疲れやすい、やる気が出ない、不安定になる

パニック症は、こうした「気の乱れ」が突発的に生じた結果と考えられます。

◆「肝」「心」「腎」の関係性

五臓六腑の中でも、パニック症状には以下の3つが深く関わっています。

(かん):感情を調整する臓腑。ストレスや怒り、不安で「肝の気」が乱れると、自律神経も過敏に

(しん):精神活動を司る。動悸・不眠・焦燥感は「心の火」が過剰になっているサイン。

(じん):生命力・恐れ・不安と関係。「腎の気」が弱まると、根本的な不安感が続く

東洋医学ではこれらのバランスを整えることで、パニック発作や予期不安を緩和していくと考えます。

西洋医学でいう「交感神経・副交感神経」のバランスも、東洋では「陰陽の調和」「気のめぐり」で表現されます。

たとえば、

交感神経過剰 → 陽気が過多 → 不眠・焦り・緊張

副交感神経低下 → 陰気が不足 → 恐怖感・倦怠感・落ち込み

鍼灸はこの「気の流れ」に働きかけることで、自律神経の調和を図り、発作の起きにくい心身を整えていくのです。

5. 鍼灸で整える、パニック症の体と心

パニック症は「心の病」とされがちですが、実際には身体のバランスの乱れが深く関わっています。鍼灸では、この「心身のアンバランス」に働きかけることで、根本からの改善を目指します。

◆ 鍼灸ができること──自律神経へのアプローチ

パニック症の方には、交感神経が常に優位になり「いつも緊張状態」という傾向があります。

鍼灸はツボ(経穴)を刺激することで、副交感神経を高め、自律神経のバランスを整えることができます。

◯呼吸が浅い → 呼吸を深めるツボへ刺激

◯動悸・不眠 → 心臓と関係するツボへ穏やかなアプローチ

◯恐怖感・不安感 → 「腎」を補い、気を安定させる施術

毎回の施術では、脈診・お腹の状態などから「その日の状態」を読み取り、適切なツボを選んで施術します。

◆ 発作を減らすだけではない、鍼灸の力

鍼灸は、「発作を減らす」だけでなく、「日常を取り戻す」ことを大切にしています。たとえば、

☑️通勤電車に乗れるようになった

☑️買い物に出かけられるようになった

☑️外食を楽しめるようになった

そうした「できることが増える変化」を、患者さまと一緒に積み重ねていきます。

6. 病院での治療と鍼灸のちがい〜相互補完という考え方〜

パニック症の治療には、精神科や心療内科などでの薬物療法・認知行動療法が一般的です。当院では、これらの医療を否定するのではなく、**「併用による相乗効果」**を重視しています。

◆ 病院での主な治療法

抗不安薬・抗うつ薬などの服用:発作や不安を緩和

認知行動療法:不安のパターンを自覚し、適切に対処する力を育てる

こうした治療は即効性がありますが、薬の副作用や服薬への抵抗感を感じる方も少なくありません。

特に「薬だけでは改善しきれない」「副作用がつらい」「もっと自然な方法を試したい」という方には、鍼灸が大きな助けとなります。

◆ 併用によるメリット

◯薬の量を減らす手助けに

◯副作用(眠気・胃腸の不調など)の軽減

◯病院では見逃されがちな、冷え・胃腸虚弱・月経不順などの体の不調にも対応

当院では、必要に応じて病院との併用を前提にし、患者さまにとって最もバランスの取れた形での改善を目指します。

「医療」と「東洋医学」の垣根を越えて、ひとりひとりに合った回復の道をサポートします。


Posted by 鍼 渋谷α鍼灸院 東京都 渋谷区 at 20:15 / 院長コラム

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