2025年6月13日
私たち鍼灸師のもとには、「鬱っぽい」「気分が沈む」といったお悩みを抱えた方が来院されます。その中で重要なのが、「うつ病」と「双極性うつ(双極性障害のうつ状態)」を正しく見分けることです。
うつ病は、気分が落ち込み続ける「抑うつ状態」が長く続く病気です。
一方、双極性障害は、「うつ状態」と「躁状態(気分が異常に高ぶる)」を繰り返す病気です。双極性障害のうつ状態は、見た目はうつ病と似ていても、背後に躁状態が隠れているため、治療のアプローチが異なります。
うつ病と診断されていた方が、後に双極性障害と診断が変わるケースも少なくありません。適切な診断と治療が必要なため、少しでも「気分の波が激しい」「時々ハイになることがある」と感じたら、専門機関への相談が大切です。
うつ病・双極性うつの原因は、単一ではなく、さまざまな要因が絡み合って発症します。
まず、ストレスや人間関係、仕事のプレッシャー、喪失体験など、環境要因が大きく関係します。さらに、脳内の神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)の働きの乱れ、ホルモンバランスの崩れ、遺伝的要因など、生物学的な要因も影響を与えます。
また、現代社会における情報過多、不規則な生活、睡眠不足なども心身のバランスを崩す一因になります。特に双極性障害は遺伝的要因の影響が強いとされ、家族歴がある人は注意が必要です。
うつ病の主な症状は、以下のようなものがあります。
・気分の落ち込み
・興味や喜びの喪失
・疲れやすさ、やる気の低下
・睡眠障害(不眠または過眠)
・食欲の低下または増加
・自責の念、無価値感
・集中力の低下
・死にたいという気持ち
双極性障害のうつ状態でも、これらとほぼ同じ症状が現れます。ただし、過去または将来的に「躁状態(例:極端な自信過剰、活動的すぎる、睡眠なしでも元気)」が見られる点が異なります。
特に双極性障害のうつ状態は、うつ病よりも自殺のリスクが高いとされており、注意深い観察が必要です。
うつ病と双極性うつは、症状だけでなく、その「波のあり方」が大きく異なります。
うつ病は、ある時期から気分が低下し、そのまま沈んでいく傾向があります。対して双極性障害は、ハイな「躁状態」と落ち込みの「うつ状態」が周期的に訪れます。これが「気分の波」です。
双極性障害では、躁状態の時に仕事や人間関係でトラブルを起こし、うつ状態で自己嫌悪に陥るという悪循環が生まれやすいのが特徴です。気分の変動が激しいと感じる方は、単なる「気分屋」ではなく、病気のサインかもしれません。
東洋医学の視点から見ると、うつ病や双極性障害は「気の巡り」や「五臓のバランス」と深く関係しています。特に関わりが深いのが「自律神経」です。
自律神経は、私たちの呼吸、消化、体温調節などを無意識にコントロールしています。ストレスや不安が続くと、自律神経のバランスが崩れ、交感神経(緊張系)が優位になり、身体が常に戦闘モードになってしまいます。
このような状態が続くと、気分の落ち込みやイライラ、不眠など、心と体の不調が現れます。特にうつ状態では副交感神経の働きが低下し、リラックスや回復が難しくなります。
西洋医学では、うつ病や双極性障害は脳内の神経伝達物質のアンバランスによる「脳の病気」として捉えられます。
うつ病では、セロトニンやノルアドレナリンなどの分泌が減少しているとされ、抗うつ薬(SSRIやSNRIなど)が用いられます。
一方、双極性障害では、躁状態を抑えるための気分安定薬(リチウム、ラモトリギンなど)が使われます。抗うつ薬を単独で使うと、躁転(うつから躁に切り替わってしまう)するリスクがあるため、慎重な管理が必要です。
カウンセリングや認知行動療法などの心理的アプローチも併用されることが多く、薬物療法と心理療法のバランスが大切です。
東洋医学では、うつ病や気分障害は「気・血・津液(しんえき)」の流れが滞った状態と考えられています。特に「肝」「心」「脾」の機能低下が関連するとされています。
・肝の疏泄(そせつ)作用
気の流れを調節する役割。ストレスで肝の働きが悪くなると、気が滞り「気鬱(きうつ)」になります。
・心の神志(しんし)
精神活動を司ります。心のバランスが崩れると、不安や不眠、集中力低下につながります。
・脾の運化作用
消化吸収と気血の生成に関係。脾の弱りは疲れやすさや無力感の原因になります。
つまり、気分の不調は全身のバランスの崩れであり、心身一如の考え方で総合的に調整していくことが東洋医学の得意分野です。
鍼灸は、心と体のバランスを整える力に優れています。自律神経の調整、気血の巡りの改善、内臓機能の調整など、さまざまな働きを持ちます。
特に以下のような効果が期待されます。
・自律神経の安定:鍼刺激は副交感神経を優位にし、リラックスを促します。
・気の巡りの改善:気滞や気鬱の状態を和らげ、気分を軽くします。
・睡眠の質向上:不眠や中途覚醒の改善に役立ちます。
・頭痛・肩こり・胃腸症状の緩和:心身の緊張を和らげ、関連する体の不調も改善します。
また、鍼灸は薬の副作用がなく、体への負担が少ない自然な治療法です。西洋医学の治療と併用することで、回復をより助けることができます。
うつ病と双極性障害は、私たちの身近にある精神的な病気ですが、その原因や経過は人それぞれ異なります。西洋医学と東洋医学の両方の視点から理解することで、より多角的にアプローチすることができます。
鍼灸治療は、心と体を整える自然な方法として、薬だけに頼らない選択肢として注目されています。もしご自身や身近な方が気分の不調に悩んでいたら、ぜひ一度、鍼灸という選択肢を検討してみてください。
心と体は、切っても切れない関係です。東洋医学の知恵を生かして、より快適に過ごせるサポートができれば幸いです。
お悩みの方は渋谷α鍼灸院まで、お気軽にご相談ください。
Posted by 鍼 渋谷α鍼灸院 東京都 渋谷区 at 18:20 / 院長コラム