2021年9月26日
眠れないストレスを抱えていたり、寝てもすぐに起きてしまう症状に悩まされていませんか?
睡眠は、仕事の生産性や日々の活力に大きく関係します。睡眠を充分にとれないと一日中眠気に襲われてすっきりしない日々になります。
睡眠不足になると肥満や高血圧、糖尿病の原因になると言われています。この肥満や高血圧、糖尿病は死の四重奏とも呼ばれて生活習慣病の危険性が大きくなります。
海外の調査では、5時間の睡眠と4時間の睡眠の人では肥満に73%の差があるとわかっています。これは、食欲に関するホルモンのバランスが崩れるためだと考えられています。
糖尿病も睡眠時間が短いと2倍から3倍に上昇することがわかっています。
ある調査では、10年間で睡眠時間が平均で5時間以下の人は高血圧にかかりやすいとわかりました。特に女性はホルモンバランスを崩しやすいために高血圧になるとも報告されています。
不眠に関しては、うつ病の方の大半に見られる症状です。うつ病の前兆として不眠が関係しているとわかっていて、不眠が続く人はうつ病にかかりやすく発症率が40倍にもなります。
睡眠障害の種類には、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害に分かれます。
入眠障害とは、寝つきが一時間以上と長くなかなか寝付けないタイプです。
中途覚醒とは、眠りについても何度も何度も途中に目が覚めてしまい熟睡できないタイプです。
早朝覚醒とは、予定する時間よりも早く目が覚めてしまい、また眠ることができないタイプです。
熟眠障害とは、起きてもぐっすり寝た感じがしないタイプです。
睡眠障害は、男性よりも女性に多く見られ、加齢とともに増加していきます。
睡眠障害の原因には、職場環境や対人関係などのストレスが大きな要素と言われています。ストレスは脳に直ぐに影響を及ぼして、体内バランスを崩します。脳にある睡眠のスイッチがストレスによって上手く切り替わらないために起こると考えられています。
人の身体には体内時計があります。この体内時計が崩れるような生活習慣の方も睡眠障害にかかる大きな原因です。
時期的なものでは、季節によって温度が変わると体温調節が上手くできないため睡眠障害になることもあります。
悪いスパイラルとして、眠れなくなる不安で、寝付こうとしても眠れないのではと意識してしまうことでさらに眠れなくなる場合もあります。
東洋医学では、睡眠に「心」が深く関わっていると考えます。心とは、西洋医学の心臓とは少し違うもので、東洋医学では、全身に血を送り出して、精神的な働きを管理するものです。
精神的な働きとは、物事を考えることや感情、意識といった面です。物事を考えるとは、西洋医学でいう脳が東洋医学では、心にあたります。
睡眠にいじょうがある時は、この心の状態をよく診て治療します。
心と腎はともに助け合う関係になります。心と腎の関係が崩れた状態を「心腎不交」と言い、この状態が睡眠障害を引き起こすと考えます。
睡眠障害はこの心と腎の機能を高めることが必要になります。
東洋医学で考える睡眠の原理とは、「陽気」という活動(熱)エネルギーが、夜になって体の内側を流れている「血」にスムーズに十分に戻ってくると、しっかりと眠れると考えられています。
日中活動しているときは陽気が外側(脳や目、筋肉など)を回っています。そうする事で十分に精神活動や身体活動を行う事ができるのです。
そして夜になると陽気は体の内側を流れる血に戻る事で正常な睡眠が起こるのですが、何らかの原因により陽気が血に戻れないと、不眠症などの睡眠障害が起こってしまいます。
睡眠障害の症状によって、以下のようにいくつかの原因が考えられます。
この場合は、陽気も血も十分にあるにも関わらず、夜になっても陽気が血にスムーズに戻れず、多くは陽経と呼ばれる経絡の上、特に頭に陽気が停滞する事で起こってくる症状になります。
停滞しやすい経絡は陽経の中でも、胃経や大腸経といった経絡になります。
これらの経絡に陽気の停滞があると、前頭部痛や顔面の腫れ物(ニキビや吹き出物、口内炎など)などの症状も現れる事があります。
軽症であったり比較的経過が短い場合であれば、停滞しているこれらの経絡を通すような治療を行うことで滞りが改善し、陽気も血に戻り寝付きが改善していきます。
しかし徐々に悪化し寝付くまでの時間が長くなってきたり、ほとんど眠れなくなってきた場合は「脾虚」や「肝虚」、「腎虚」が原因となっている事が多く見られます。
寝付きが悪い状態から徐々に悪化していき慢性的になってきたり、ほとんど眠れなくなってきている場合は、その原因として「脾虚」「腎虚」「肝虚」が考えられます。
これらの臓器の機能低下が起こると、いずれの場合も血が不足していき、陽気の戻るべき元がなくなるために、不眠の症状が現れてきます。
①脾虚
脾は食べ物を消化して血を作り出しますが、脾が弱っていたり栄養不足が続くと、その血が不足してしまいます。
軽度の脾虚の場合は、血の不足はそこまで進んでいないため、主に胃経や大腸経に影響し、陽気の停滞を引き起こすため、寝付きが悪くなります(上述の通り)。
しかし脾虚が進み、血不足が深刻になってくると眠れなくなってきます。
そしてそれだけではなく、この後紹介する肝虚にも影響してきます。
脾の不調があると睡眠障害の他に、浮腫、倦怠感、話すのが億劫、食欲不振、軟便、息切れなどの症状が出てきます。
②腎虚
腎は主に水分代謝を司りますが、手術や服薬、炎症、加齢などの原因によりこの腎に機能低下が起こると、体の水分量が減ってきます。
血の成分には津液という水分が含まれています。つまり水分が減ると、この血も減ってきてしまうのです。
そして血不足による睡眠障害が起こります。
またそれだけではなく、この後紹介する肝虚にも影響を与えます。
腎の不調があると睡眠障害の他に、精力減退、耳鳴り、難聴、足腰の重だるさ、頻尿、免疫力低下、無気力などの症状を伴います。
③肝虚
肝は血を貯蔵し、全身の循環を調整する臓器になります。
肝虚(機能低下)があると全身に上手く血を巡らせる事ができず、ある部分は滞り、ある部分は虚血を引き起こします。
そして血が足りない部分(例えば脳など)では陽気が戻れず、睡眠障害が現れてきます。
肝はストレスに弱いため、継続的で強いストレスを受けていると機能低下を起こします。
また肝は特に血の影響を受け、血不足になると真っ先に機能低下を引き起こします。ですので前述した脾虚や腎虚により血が不足すると、必ず肝虚も引き起こします。
肝虚と血不足があると睡眠障害の他に、眼精疲労、めまい、顔や爪の色が悪い、手足の痺れ、こむら返り、月経痛などの症状を伴います。
睡眠障害の症状として寝付きの悪さや眠れない他に、途中で目が覚めてしまう中途覚醒という症状もあります。
中途覚醒は、「心」や「肺」に熱がもともとこもっている状態で、そこに夜になって陽気(熱エネルギー)が戻ってくることで、熱が頭などに停滞し溢れてしまい、途中で起きてしまう状態です。
心や肺に熱がこもる状態は、水分や血の不足によって起こる事がほとんどです。つまり前述した脾虚、腎虚、肝虚を併発している事が多く見られます。
心に熱がこもると、動悸や多夢、胸の痛みなどの症状も現れる事があります。
肺に熱がこもると、夜や寝ている時に空咳が出てくる事もあります。
いずれの場合も、心や肺の熱を取り除き、その背景にある脾虚、腎虚、肝虚の治療を行う必要があります。
ここまで東洋医学的な観点から睡眠障害を診てきましたが、最後におおまかな治療手順をご紹介します。
①脾虚、腎虚、肝虚の治療
まずは睡眠障害のベースになっている脾虚、腎虚、肝虚の治療を行います。
そうする事で血が充実していき、眠れない状態が改善していきます。
ただし、発症してからの経過が長かったり症状が重い場合は、これら臓器の回復に時間がかかる場合が多く見られます。
②停滞している陽気や熱を取り除く
①のようなベースの治療を行いながら、陽経(特に胃経や大腸経)の陽気の停滞を取り除いたり、心や肺にこもった熱を取り除きます。
発症してからの経過が短かったり症状が軽症の場合は、②のみの治療で寝付きの悪さや中途覚醒が改善する事はあります。
しかし体の状態や生活環境、これまでの経過やその他に随伴している症状などにより、①のような臓器の治療がほとんどのケースで必要になってきます。
睡眠障害の方の特徴として、後頭下筋群の硬さがよく見られます。赤ちゃんが眠る時に首裏を触るととても温かくなっています。これは、脳に血流を良く送っているサインで、眠る準備に入っているといえます。頸部が硬いと脳に回る血流も悪くなるため睡眠に障害がでると考えられるので、後頭部の柔軟性も睡眠障害治療には欠かせません。
睡眠によく効く経穴は後頭部に天柱、風池、安眠があります。
身体の硬い部位によって
・首裏が硬いと寝つきが悪くなります。
・背中が硬いと寝返りが打てないので途中覚醒が多くなります。
・腰が硬いと夜トイレに起きることが多くなります。
のような傾向があります。睡眠障害のパターンによって集中して治す部位が変わります。
首裏から腰かけての硬い部位を治療することは大切になります。
睡眠障害の大きな原因にストレスがあります。このストレスは、自律神経が整っている状態だと耐えられるのですが、乱れていると全身症状となって現れます。脳は、ストレスに過敏でストレスを受け過ぎると自律神経を崩させてしまいます。
睡眠障害を治療するには、この自律神経のバランスを整えるのが重要になります。
自律神経は交感神経と副交感神経のバランスによって成り立ち、内臓の働きや全身の血管をコントロールしています。そのため自律神経のバランスが人の自然治癒力を握っています。
当院には、自律神経測定器により交感神経と副交感神経のバランスを調べることができます。自律神経のバランス以外にも肉体的ストレスや精神的ストレスなども調べられますので、より多角的にアプローチできます。
鍼灸治療は、自律神経のバランスを整えるのに優れた治療法です。心地よいお灸と痛くない鍼を使って治療することで身体の循環がとても良くなります。
小一時間の治療を受け終わるころには、効果を実感していただけると思います。
二十代男性
IT関係のお仕事
来院動機
入眠から三時間後ぐらい起きてしまい、それ以降寝れなくなることや、朝起きても意識がずっとあるような眠りが浅い状態で日中が眠くて仕事に支障をきたすと言われました。
中途覚醒はトイレ以外にも些細な音で起きてしまい原因が分からないので自律神経の乱れを疑い来院されました。
問診と触診
自律神経測定器では、交感神経が高く副交感神経が低い状態でした。
後頭部が強い凝りがあり首から肩にかけてもガチガチに筋肉が緊張していました。
一回目
副交感神経を上げる治療を終える頃に眠くなったと言われてそのまま眠られてしまいました。治療が終わるまで終始眠られて、スッキリとしたと言われてました。
二回目
一回目の治療後から目覚ましを設定した時間まで眠れるようになったと言われて、症状が出ないと報告を受けました。
三回目
二回目の報告同様、眠りが深く今の状態に満足されてました。
四回目
副交感神経も上がってきて、症状もでないため、ここで治療を終えました。
治療症例
三十代男性
会社員
来院動機
約2ヶ月前から睡眠の質が著しく悪くなり、心療内科を受診し処方された睡眠導入剤を服用している。薬の効果が切れると起きてしまうためストレスを感じている。
診察
自律神経測定器を用いて自律神経の状態を確認してみると、交感神経が高く緊張状態であることがわかりました。また、ストレス指数も身体的・精神的共に高いレベルに推移していました。
触診では、僧帽筋や菱形筋など首〜背中にかけての筋緊張が認められました。
一回目
まずは、全身的にリラックスできる身体づくりを目指し、筋緊張と自律神経を整えるような治療をベースに行いました。
二回目
一回目の治療後の夜は、ぐっすり眠ることができ質も良くなったと効果を実感していただきました。
四回目
三回目以降、睡眠導入剤を服用しなくても眠れるようになったとのことでした。
睡眠のストレスも改善されたことで、ここで治療が終了となりました。
Posted by 鍼 渋谷α鍼灸院 東京都 渋谷区 at 10:35 / 院長コラム