2025年6月2日
顔の片側が突然動かせなくなる「顔面神経麻痺」
鏡を見て初めてその異変に気づき、大きなショックを受ける方も少なくありません。私たちの顔は、表情によって感情を伝え、コミュニケーションを図る上で非常に重要な役割を担っています。だからこそ、顔面神経麻痺は身体的な不自由だけでなく、精神的な負担も大きい病気と言えるでしょう。
顔面神経麻痺とは、顔の筋肉を動かす「顔面神経」に何らかの障害が起こり、顔の表情筋が麻痺してしまう状態を指します。顔面神経は、脳から耳の奥を通り、顔の各部位に枝分かれして、まぶたの開閉、口角の上げ下げ、額のしわ寄せなど、様々な表情を作る筋肉を支配しています。この神経が機能しなくなることで、顔の片側が全く動かせなくなったり、動きが悪くなったりします。発症から早期に治療を開始することで、回復率が高まるとされています。
顔面神経麻痺の原因は多岐にわたりますが、最も多いのは「ベル麻痺」と呼ばれる突発性のものです。これはウイルス感染(ヘルペスウイルスなど)が関与していると考えられていますが、はっきりとした原因が特定できない場合が多いです。その他にも、以下のような原因が挙げられます。
ウイルス感染: 帯状疱疹ウイルスによる「ハント症候群」は、耳の痛みや水疱を伴う顔面神経麻痺です。
外傷: 交通事故や頭部外傷などによって顔面神経が損傷を受けることがあります。
腫瘍: 脳腫瘍や聴神経腫瘍などが顔面神経を圧迫することで麻痺が生じることがあります。
中耳炎などの炎症: 中耳炎が顔面神経に波及して麻痺を引き起こすことがあります。
脳血管障害: 脳梗塞や脳出血など、脳の病気によって顔面神経が障害されることもあります。この場合、手足の麻痺など他の神経症状を伴うことが多いです。
額にシワが寄せられない
目が閉じられない(兎眼)
口角が下がってへの字になる
食べ物や飲み物が口からこぼれる・唾液が垂れる
味覚障害
聴覚過敏
これらの症状は、急性に現れることが多く、特に朝起きて顔を洗うときや、歯磨きをするときなどに気づく方が多いようです。
末梢性顔面神経麻痺
顔面神経の経路のうち、脳幹から顔の筋肉までの間に障害が起こるものです。ベル麻痺やハント症候群など顔の片側全体が麻痺するのが特徴です。
中枢性顔面神経麻痺
脳内の顔面神経の経路に障害が起こるものです。脳梗塞や脳出血などが原因で起こります。この場合、額の動きは保たれることが多いですが、口元から下の麻痺が目立つのが特徴です。これは、額の筋肉を支配する神経が左右両方から来ているためです。
鍼灸治療の対象となるのは主に末梢性顔面神経麻痺ですが、中枢性の場合も、リハビリテーションの一環として鍼灸が有効な場合があります。
顔面神経そのものには、涙腺や唾液腺の分泌を調整する自律神経線維が含まれています。そのため麻痺が重度の場合、涙が出にくくなったり、唾液の分泌が減ったりする症状が見られることもあります。
またストレスや過労、睡眠不足といった自律神経の乱れは免疫力の低下を招き、ウイルス感染症のリスクを高める可能性があります。ベル麻痺の原因の一つであるヘルペスウイルスは、疲労などで免疫力が低下したときに再活性化しやすいとされています。このことから、顔面神経麻痺の予防や回復過程において自律神経のバランスを整えることが非常に重要であると言えます。心身の緊張を和らげ、リラックスできる状態にすることで、自然治癒力を高めることにも繋がります。
西洋医学における顔面神経麻痺の治療は、原因によって異なりますが、主に以下のような方法がとられます。
薬物療法
・ステロイド薬: 炎症を抑え、神経の腫れを軽減するために用いられます。発症後早期の投与が重要とされています。
・抗ウイルス薬: ハント症候群などウイルス感染が原因の場合に用いられます。
・ビタミン剤: 神経の回復を促す目的で処方されることがあります。
リハビリテーション: 症状が落ち着いてきた段階で、顔の筋肉を動かす訓練(表情筋トレーニング)やマッサージなどが行われます。
外科的治療: ごく稀に、神経の圧迫が原因である場合や、麻痺が改善しない場合に、神経減圧術や神経縫合術などが検討されることがあります。
対症療法: 兎眼に対しては、点眼薬や眼帯の使用、睡眠時のテープ固定など、目の保護が重要です。
西洋医学では、原因の特定と急性期の治療が重視されます。特にステロイド薬の早期投与は、麻痺の改善に大きく貢献すると考えられています。
東洋医学では、顔面神経麻痺は「口眼歪斜(こうがんわいしゃ)」などと呼ばれ、古くからその治療が行われてきました。
・風邪(ふうじゃ)の侵入: 顔面神経麻痺は、外からの「風邪」が経絡(気の通り道)に侵入し、顔面部の気血の流れを阻害することで起こると考えられます。特に冷えや乾燥、ストレスなどにより免疫力が低下しているときに風邪が侵入しやすいとされます。
・気血不足: 身体全体の「気(生命エネルギー)」や「血(栄養物質)」が不足していると、顔面部の筋肉や神経に十分な栄養が行き渡らず、麻痺が生じやすくなると考えられます。慢性的な疲労や睡眠不足、偏食などが原因となります。
・肝鬱気滞(かんうつきたい): ストレスや精神的な緊張が続くと、「肝」の機能が停滞し、「気」の流れが滞ります。これにより、顔面部の気血の流れが悪くなり、麻痺が生じると考えられます。
・脾胃(ひい)の不調: 消化器系の「脾胃」の機能が低下すると、気血の生成が滞り、全身に栄養が行き渡りにくくなります。
鍼灸治療は、顔面神経麻痺の回復において、多くの有効性が報告されています。
顔面部の血行促進
神経の再生・機能回復の促進
筋肉の拘縮予防・緩和
異常共同運動の改善
自己治癒力の向上
精神的ストレスの緩和
後遺症の軽減
鍼灸治療は、発症後早期の急性期から開始することが推奨されています。急性期には、炎症を抑え、神経の回復を促すことを目的とした治療を行います。症状が安定してきた慢性期には、残存する麻痺や後遺症の改善、顔面筋のリハビリテーションを目的とした治療を行います。
治療にあたっては患者さんの症状や体質、回復段階に応じて顔面部のツボだけでなく、手足や体幹部のツボも組み合わせて使用します。例えば、気の流れを整えるツボ、血行を促進するツボ、自律神経のバランスを調整するツボなど、全身のバランスを考慮したオーダーメイドの治療計画を立てます。
また鍼灸治療と並行して、適切なリハビリテーションや自己ケアも非常に重要です。鍼灸師は表情筋トレーニングのアドバイスやご自宅でできるマッサージ、日常生活における注意点など様々な側面から回復をサポートします。
顔面神経麻痺でお悩みの方は、渋谷α鍼灸院までご相談ください。
Posted by 鍼 渋谷α鍼灸院 東京都 渋谷区 at 16:22 / 院長コラム