お知らせ & コラム NEWS / COLUMN
シャルコー・マリー・トゥース病と鍼灸治療
手足の筋肉が細くなってきたり、足がつまずきやすくなったり、手の動きがぎこちなく感じたり。
これらの症状からはじまるのが、シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth病 / CMT)です。
患者さんによって症状の出方や進行の速さは異なりますが、長い時間をかけて少しずつ筋力や感覚が低下していくのが特徴です。
「このまま動けなくなってしまうのでは…」
「何か自分でできるケアはないだろうか」
そんな不安を抱える方も少なくありません。

西洋医学から見たCMT 〜遺伝による末梢神経の障害〜
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CMTは、遺伝子の異常によって、手足に張りめぐらされた「末梢神経」に障害が起こる病気です。
末梢神経は、脳や脊髄から筋肉に命令を伝えたり、皮膚の感覚を脳に伝えたりする“通信ケーブル”のような役割をしています。
CMTではこのケーブルの構造に異常が生じるため、
・信号がうまく伝わらない
・筋肉が動かなくなる
・感覚が鈍くなる
といった症状が現れます。
病型はいくつかあり、神経絶縁体あるミエリン鞘が障害されるタイプや、神経そのもの(軸索)が障害されるタイプなどがあります。
遺伝性のため根本的な治療はまだ確立されていませんが、リハビリや装具、理学療法によって進行を緩やかにし、できる限り自立した生活を保つことが目標とされています。
一方で、近年は遺伝子治療・幹細胞治療・神経再生医療などが研究段階に入りつつあり、将来的な希望も見えてきています。
つまり、「いま何もできない病気」ではなく、「いまはケアを続けながら、体をできるだけ良い状態に保つことが大切な時期」とも言えます。
東洋医学の視点 〜「気・血・水」と経絡の乱れ〜
東洋医学では、CMTのように「手足の筋力が低下し、感覚がにぶる」状態を、気・血・水(き・けつ・すい)の流れの乱れとしてとらえます。

体の中を流れる「気」は生命エネルギー、「血」は栄養や潤いを運び、「水」は体液のバランスを保つものです。
これらが滞ると、筋肉や神経への栄養が行き届かなくなり、しびれや脱力、冷えが起こると考えられます。
とくにCMTでは、
手足の筋肉が弱る → 「脾」や「腎」のエネルギー不足
手の震えや細かい動作のしづらさ → 「肝」の血の巡りの乱れ
慢性的な疲労や冷え → 「陽気(ようき)」の不足
などが関係すると考えられます。
また、長年にわたる体の変化や不安・ストレスも、自律神経の働きを乱し、さらに気血の流れを妨げます。
つまり、CMTのケアでは「神経」「血流」「自律神経」この3つのバランスを整えることがとても大切です。
鍼灸でできるサポートとは
鍼灸では、体が本来持っている自己回復力を引き出すことを目的とします。

CMTのような慢性神経疾患に対しては、
・末梢の血流を改善する
・自律神経の働きを整える
・筋肉の緊張をやわらげる
・神経の伝達をサポートする
といった作用を狙っていきます。
当院では、ツボの数をたくさん使うよりも、自律神経測定器を用いて「その日の体の状態」を科学的に確認しながら治療方針を立てます。
たとえば、交感神経が過剰に高ぶっている人は、筋肉のこわばりや血流の悪さが出やすく、手足の冷えやしびれを感じやすい傾向にあります。
逆に、副交感神経が強すぎるタイプでは、だるさやエネルギー不足が目立つことも。
このように体質や自律神経の状態を測定し、刺激量を細かく調整することで、より安全で効果的な治療が行えます。
鍼灸治療の流れ
1.カウンセリングと測定

症状の経過、日常生活の工夫、睡眠・ストレスなどを丁寧に伺い、自律神経測定器で体の状態を可視化します。
2.全身のバランス調整

手足だけでなく、首・背中・腹部など、神経や血流をコントロールする部位にやさしい刺激を加えます。
3.局所のケア

手足のしびれや脱力がある部位に、微細な鍼や温灸を用いて血流を促進します。
刺激はとても穏やかで、痛みはほとんどありません。
4.施術後の測定と説明

治療前後で自律神経のバランスを再度測定し、身体の変化を一緒に確認します。
「見てわかる変化」は、安心感にもつながります。
鍼灸で期待できる効果
CMTは遺伝的な要素が強いため、完全に治すことは難しい病気です。
しかし、鍼灸によって次のような「生活の質の向上」が期待できます。
・手足のこわばり・しびれの軽減
・筋肉の血流改善による動かしやすさ
・冷えやむくみの緩和
・睡眠の質や自律神経バランスの改善
・慢性的な疲れ・不安感の緩和
・日常動作の安定と転倒予防
こうした変化の積み重ねが、心身のリズムを整え、「自分の体を信じられる感覚」を取り戻すことにつながります。
「できない」を「少しできる」に変える
CMTを抱える方の中には、「動かすのが怖い」「疲れるのが怖い」と感じてしまう方も多くいます。
しかし、体をまったく動かさないことは、血流や代謝をさらに低下させてしまいます。
鍼灸では、体に無理のない範囲でエネルギーを循環させ、「やさしく動かせる体」をつくっていきます。
わずかな変化でも、それを積み重ねることが未来の大きな差になります。
たとえば「歩くときの足の運びが軽くなった」「手の冷えが減った」「夜ぐっすり眠れた」——そうした小さな一歩を、私たちはとても大切にしています。
心と体を同時にケアする
CMTは、身体の変化だけでなく、心の負担も大きい病気です。
不安、焦り、孤独感…。
こうした感情が続くと、自律神経が乱れ、体の回復力が下がってしまいます。
東洋医学では、「心身一如(しんしんいちにょ)」——心と体は一つ、という考え方を大切にします。
心が落ち着けば、筋肉の緊張もやわらぎ、血流も整っていきます。
鍼灸はその橋渡しのような役割を果たします。
施術中に深い呼吸が自然と出てくる方も多く、終わった後に「体が軽い」「頭が静かになった」と感じる方が多いのは、そのためです。
シャルコー・マリー・トゥース病は、長く付き合っていく必要のある病気です。
ですが、「今の自分の体をあきらめないこと」が、何よりも大切です。
鍼灸は、薬や手術のように即効性があるわけではありませんが、じっくりと体の内側から整えていく療法です。
自律神経の状態を見える形で確認しながら、一人ひとりの体質や生活に合わせて施術を行うことで、少しずつでも確実に体は応えてくれます。
「少しでも動かしやすくなりたい」「疲れにくくなりたい」「この先を安心して過ごしたい」
どんな些細なことでも構いませんのでお困りの際はお気軽にご相談ください。
Posted by 鍼 渋谷α鍼灸院 東京都 渋谷区 at 12:28 / 院長コラム
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