近視性脈絡膜新生血管と鍼灸治療

近視性脈絡膜新生血管とは

近視性脈絡膜新生血管(myopic choroidal neovascularization:mCNV)とは、強度近視の進行に伴い、網膜の下にある脈絡膜から異常な新生血管が発生する病態を指します。

これらの血管は非常にもろく、出血や滲出液を生じやすく、視力低下や視野欠損の原因となります。進行すると網膜に瘢痕を形成し、不可逆的な視力障害を残すことも少なくありません。近年では高齢化やデジタル機器の普及により、強度近視が増加している背景から注目される病気です。

発症のメカニズム

強度近視では眼球が前後に伸びるため、網膜や脈絡膜が引き伸ばされ、組織が菲薄(ひはく)化します。その結果、網膜色素上皮やブルッフ膜に亀裂が入りやすくなり、その修復反応として新しい血管が脈絡膜から網膜へ侵入してきます。しかし、これらの血管は正常な血管に比べて構造が不完全であり、血液成分や水分が漏れ出しやすく、網膜に浮腫や出血を引き起こして視機能を障害します。

原因

主な原因は「強度近視による眼球伸長」です。以下の要素が発症に関与すると考えられています。

・遺伝的素因(近視家系)

・長時間の近業作業やデジタルデバイスの使用

・加齢による網膜・脈絡膜の脆弱化

・血流不全や循環障害

これらが組み合わさり、網膜組織の酸素不足や修復機能低下を招き、新生血管が生じやすい環境となります。

症状

初期にはゆがみ(変視症)やかすみが出現し、ものが歪んで見えることがあります。進行すると視力低下や暗点が現れ、日常生活に支障をきたします。片眼で進行してももう一方の眼が補うため気づきにくく、発見が遅れることもあります。

自律神経との関係

自律神経は血流や代謝を調整しており、眼の健康とも深く関わります。交感神経が過度に優位になると末梢血流が低下し、網膜や脈絡膜への酸素・栄養供給が不足します。反対に副交感神経の働きが弱いと修復やリラックス作用が不十分になり、眼精疲労が蓄積します。結果として微小循環の不調が新生血管の発生や悪化に関与すると考えられます。

西洋医学的観点

現在の標準治療は「抗VEGF薬の硝子体内注射」です。血管内皮増殖因子(VEGF)を抑えることで新生血管の増殖を防ぎ、出血や浮腫を軽減します。効果は高いものの、定期的な注射が必要で、侵襲性や通院負担があります。レーザー治療や光線力学的療法(PDT)が行われる場合もありますが、中心窩を傷つけるリスクもあり、慎重な適応判断が必要です。

東洋医学的観点

東洋医学では「眼は肝の竅(あな)に通ず」とされ、肝の血や腎精の不足、気血水の巡りの停滞が眼の病変に影響すると考えます。特に強度近視や網膜疾患は「肝腎不足」「血瘀(血流の滞り)」の病証に当てはまりやすいとされます。加えて、長時間の目の酷使や精神的緊張による「気滞」も眼の循環不全を助長します。鍼灸治療では全身の調和を整え、眼局所への血流を改善することを目的とします。

鍼灸治療の目的

・眼周囲の血流改善

・自律神経のバランス調整

・気血の巡りを促進し、瘀血の改善

・眼精疲労やストレスの軽減

・進行抑制や再発予防のサポート

施術部位

・眼周囲:晴明、攅竹、承泣、四白

・頭部:太陽、風池、百会

・全身:太衝、三陰交、腎兪、肝兪

・自律神経調整:合谷、内関、足三里

近視性脈絡膜新生血管に対する鍼灸施術は、眼局所への直接的なアプローチと、全身状態を整える治療を組み合わせて行います。

まず眼周囲には晴明・攅竹・承泣・四白などの経穴を用い、血流を促し、眼精疲労やかすみの改善を図ります。これらは皮膚が薄い部位であるため、浅くやさしい刺激を基本とし、眼への血液循環を高めることを目的とします。加えて、頭部の太陽・風池・百会といったツボを用いることで、眼の血流だけでなく首や肩の緊張を緩め、頭部全体の循環を整えます。

さらに全身施術も重視されます。太衝・三陰交・腎兪・肝兪などは「肝腎を補う」ことを目的に選ばれ、目の健康に必要なエネルギーや血の供給を高める働きが期待されます。また、合谷・内関・足三里などは自律神経を調整し、全身の血流や代謝を改善することで眼への負担を軽減します。

施術は患者さんの体質や症状の進行度に応じて調整され、強すぎない刺激で継続的に行うことが重要です。こうした鍼灸施術は眼科的治療を補完し、眼底の血流改善、進行抑制のサポート、そして生活の質の向上につながることが期待されます。

効果

臨床的には以下の効果が期待されます。

・眼精疲労やかすみの軽減

・頭痛や肩こりなど随伴症状の改善

・睡眠の質や自律神経機能の向上

・眼底血流の改善による進行抑制の補助

ただし、抗VEGF治療の代替ではなく、補完療法としての位置づけです。眼科での定期的な検査・治療と併用することで、生活の質向上につながります。

通院頻度

急性期や眼精疲労が強い時期は週1~2回、その後は症状や体調に応じて2週に1回、維持期は月1回程度が目安です。抗VEGF注射を受けている場合は、そのスケジュールに合わせて施術を行い、全身状態を整えるサポートをしていきます。

セルフケア

眼の休養:1時間ごとに5分程度、遠くを見る習慣

姿勢の工夫:デスクワークでは猫背を避け、肩首の緊張を和らげる

睡眠の質改善:自律神経を整えるために規則正しい生活を心がける

軽い運動:ウォーキングやストレッチで全身の血流を改善

温罨法:蒸しタオルで眼周囲を温めることで血流促進

食養生:ブルーベリー、クコの実、緑黄色野菜など眼に良い食材を意識的に摂取

呼吸法やリラクゼーション:ストレスを軽減し、自律神経の安定を図る

まとめ

近視性脈絡膜新生血管は、強度近視の進行に伴い発症する重篤な眼疾患であり、放置すると視力障害を残す可能性があります。

西洋医学の抗VEGF療法が第一選択である一方で、鍼灸治療は血流改善や自律神経調整を通じて進行抑制や生活の質向上を支える役割を果たします。患者さん一人ひとりに合った施術とセルフケアの組み合わせにより、目の健康を長期的に守っていくことが大切です。

Posted by 鍼 渋谷α鍼灸院 東京都 渋谷区 at 16:36 / 院長コラム

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